昭和54年冬。三女・滝子(深津絵里)の呼びかけで、久しぶりに竹沢家の四姉妹が集まった。父・恒太郎(仲代達矢)に愛人と子供がいるというのだ。この事件を機に、女たちが抱える日常の様々な事件が露呈してくる。それぞれが織りなす愛の形を通じて、向田邦子が“愛”というテーマを見事に描き切った代表作「阿修羅のごとく」。今を生きるすべての女性に贈る、ときに優しく、ときに辛辣な4つの愛の物語だ。監督、異才・森田芳光。脚本、向田邦子賞作家・筒井ともみ。音楽、大島ミチル。キャスト、大竹しのぶ、黒木瞳、深田恭子、小林薫、坂東三津五郎、桃井かおり、木村佳乃、八千草薫――。これを観ずして愛と女を語ることなかれ。
この作品の見所の1つは、四人姉妹のうち誰が父親の浮気について、新聞に投書したかである(と私は思う。)。本編の前半のほうのシーンであるこの謎が、映画のラスト近くで分かる分かり方といい、誰であったかという結末といい、(予想しやすかったことも含めて)見事であった。この伏線の張り方は、脚本家・三谷幸喜の得意とする伏線の張り方によく似ている。いや、そうではなく、三谷幸喜の伏線の張り方が、向田邦子に似ているのである。三谷幸喜が、向田邦子作品に対する思い入れを語るのを読んだことがあるので、きっと影響を受けたのであろう。このようにして、優れたクリエイターの作品や手法は、受け継がれていくのであろう。他の見所として、電話を使ったシーンが、実に上手いことを挙げたい。現在を描いた作品の携帯電話を使うシーンには、ないものがある。1979・80年を描いたこの作品は、時代が変わっても変わらないものがあることを教えてくれる。