芥川龍之介原作の短編・藪の中をベースに同じく短編・羅生門の要素を加えた作品である。被害者、容疑者、被害者の妻、本当の事を述べているのは一体誰か、そして第一発見者の語る真相とは・・・。<P>各人の証言およびその再現フィルムのみで構成されるシンプルな作り。しかしその根底に横たわる人間の汚さ、そして絶望とその後に訪れる希望を見事なまでに描ききっている。日本映画だから・・・古い作品だから・・・と今まで避けてきた人にこそ是非観ていただきたい作品である。
黒澤明は好きだし、原作の芥川龍之介はもっと好き。「藪の中」八割と「羅生門」二割を混ぜたような本作品は、個人的には大変面白く見ることができた。<P>しかし、古さは如何ともしがたいほど感じてしまう。黒澤、芥川のネームバリューを考慮し、さらに、本作品が評価されたのはジャポニズムの影響が大きいことも忘れてはならない、と思われる。べた褒めの五つ星ばかりなのは可笑しいと思うので、泣く泣くマイナス二点。<BR>「七人の侍」とかより圧倒的に短編なのもいい。あれはさすがに長すぎると思います。
ヴェネチアで金獅子賞、これがどれほど輝きに満ちたものか。米国の映画賞やカンヌの映画賞ばかりを取り上げる風潮を、この映画はばっさりと切って捨てる。<P>三船の泥臭くも颯爽としたみずみずしい快演。京は純真を残した少女と女の間を行き来する。森の気弱さと『悪い奴ほど』の演技を予告する冷酷無比の対照。志村が『生きる』で見せる真摯の原型を見せる。千秋の茫洋の存在感、上田の悪漢と猥雑、イタコの強烈。このような役者の引力と爆発力が現代にはたして存在するだろうか。これは人間の光と闇が彼らの肉体に宿る瞬間を捉えた映画なのだ。<P>芥川の「藪の中」を下敷きにしたプロットは、フィルムに閉じ込められて、まるで破裂せんばかりのエネルギーを放つ。豊穣なる日本映画の奇跡の一献、舐めてみるべし。思索の必要なく味わえば足りる、それが映画のなかの映画である証拠に違わず。<P>さまざまな黒澤映画に関する伝説の裏側を、当時の製作スタッフが長時間にわたって語り合った”おまけ”映像もあり、それがデラックス版なるゆえんであろうが、「製作の事実」を語る生々しさにファンならずとも引き込まよう。