長らくビデオ版で見てきただけに、たった5分長くなっただけとは言え、DVD版は衝撃的でした。そしてその5分に重要なシーンが凝縮されています。そして長谷川監督のインタビューも目から鱗が落ちるもので、今までこの映画に思い入れてきた先入観が晴れました。予告編にしか残っていないシーンもあり、絶対にこのDVDは買いです。<P>不謹慎かもしれませんが、どうも私は両親殺害の前半部はブラック・コメディに見えるのです。死体でしかない父親はまるで『ハリーの災難』ですし、市川悦子のぶっ飛んだ大仰な演技は何か時代劇の大立ち回りを思わせます。それは長谷川監督の資質なのかもしれません。暗黒劇にしても良いし、スプラッターにしても良い所なのに、深刻さをあえて避けているように感じます。しかしそれとは対照的に、主人公がケイ子と一緒にいる時間の方が張り詰めた心象に満ちています。そして父親は主人公の回想の中で最も存在感を持つのです。この作品のテーマは両親殺しと言うよりも、むしろ好むと好まざるとに関わらず大人にならざるを得ない青春の戸惑いと苦悩であるように思います。原作の『蛇淫』もかつて斜め読みしたことがありますが、この映画では主演女優に原田美枝子を迎えたことで、全く違った作品になっています。濃密な情念の世界がリリカルな青春の彷徨ストーリーになり、まるでテレンス・マリックの『バッドランズ』の作品世界です。<P>1980年には金属バット殺人事件やバス放火事件が起こり、真意の知れない不気味な事件が増える先駆けとなりました。この作品はまだ人間の顔が見える時代の名残を残しています。そして大人になることが簡単ではなくなった現代の若者のもがきにも通じていて、今こそ再評価されるべき作品だと思います。
うちにも息子がいます。市原悦子の演じた母親みたいな気持ちが自分の中にもあります。罪を犯した息子をかばおうと必死な姿。他の女の所に行って欲しくないという嫉妬心の深さ。老若男女問わず見てもらいたい映画ですね。年齢と共に感じるものは全く違うと思います。
映画という表現形態が好きで、この作品を観ていない皆様へ。どうかゼヒ観て下さい。私は映画が本当に好きで、いろいろな映画をこれからも観たいし、今までもちょっとは味わってきた「つもり」でした。しかしこの映画は私の自尊心など遥かに超えていました。「パスワードをお忘れの際の設問。あなたの一番好きな映画は?」と訊かれたり、寝不足の日の昼間や初対面の人と「何を話そうか」と悩んでいるようなふとした時など、「私の一番好きな映画は何だろう」と考えた時、(これを初めて観てから何年も経っているのに)長らくこの映画しか頭に浮かびません。日本映画の、これはまごうかたなき極北であります。ひとをころす夢を見る自分の「根」、自他、「殺す」こと、「殺さねばならぬ」こと、人間、「すべて!のことが表されている」日本人の財産です。