今までの人生で5回観ました。映画というのは、その時々の経験で、まったく違った側面が強調されて見える、味わいが変わることがこの映画で実感されました。最初に見たときは、単に雪の中でたくさん人が死ぬ、雪山は怖い(小学生の頃)としか思わなかったのですが、サラリーマンを何年もやってから改めて観ますと、本当に似たような状況に出くわした自分であり周囲が映像の中に重ねあわされて、全く違った感想を持ちました。<P>組織の圧力の中で如何に上長を説得し、それでも止まない上長の横槍の中、自分の考えをどうやって通して、望ましい結果を導き出していくか、また軍隊というそもそも人間性が疎外される中で、自らの生き様であり、部下に対する人間的な思いやりを、軍隊としての枠組みを離れずに表現出きるか、高倉健と北大路欣也が演ずるタイプの全く異なるリーダー像を通じて感じ入った次第です。<P>しかし、最高の結果を出したグループが何年後かには203高地で全員命を散らした一方、リーダーシップ不在で死のふちを彷徨いながらも、足を凍傷で失ったがために、第二次大戦後まで生き残ることが出来た兵士が過去を振り返るシーン....。人生何が勝者で何が敗者か、その基準とは何かまで考えさせられました。<P>時代考証等は差し置いて、リーダーシップとは何か、組織とは何か、そして日本人が失いつつある矜持とは何かを考えさせられる作品です。本当にお勧めします。
邦画を甘く見ていた自分が情けないほど、この映画はいいです。高倉健の作品の中でも私はこの作品が一番好きです。映画は古い作品のほうがいいですね。下手にCGとかを多用するより、こういうきちんととった作品のほうが訴えてくるものの重さが違います。<P>雪中行軍の訓練として冬の八甲田山を踏破するという命令を受け、高倉健扮する徳島大尉と北大路欣也扮する神田大尉が八甲田踏破へ向かいます。雪山の怖さを知り尽くし、入念な準備と計画を練る徳島大尉に対し、上層部の命令にそむけず無理な編成で八甲田に望む神田大尉とを対照させながら、雪山の恐ろしさ、軍部上層部の傍若無人な態度、厳しい規律などを克明に描いています。次々と発狂し死んでいく兵士たち、寒さと孤独の恐ろしさがここまで人の心を蝕むのかというほどリアルで、ぞっとします。本当に現実にあったことなのかと信じられない気さえします。しかし、この雪中行軍を無事生き残った徳島大尉の部隊も別の戦場で死んでしまうというテロップを読んだときには、何か虚しさがこみ上げてきました。戦争というものはそういうものなのかもしれません。<BR>余談ですが、この作品の中に若かりし頃の秋吉久美子と、加賀まり子が出てきますが、めちゃくちゃかわいいです。<BR>この作品を見た後には是非原作である、新田次郎著の「八甲田山市の彷徨」を読まれてみてはいかがでしょうか。
史実を脚色した原作を映画化したものとしこの映画は大変素晴らしいものだと思います。私は実際この映画から八甲田山雪中行軍遭難事件について興味を持ちました。当時は以外にも新聞が民主的で天災の面を伝える一方、人災の面も大きかったと伝えたことや、またそれに反し軍はこの事件を天災によるものとし美談化したこと、山口少佐死亡が謎とされている話等々・・・。<P>悲劇をもとにして伝えるメッセージをしっかりと持ち、映画全体を通して見る側に訴えかけるというのは言うは安しですが、この映画のように実際の舞台で撮影することで説得力をもたせるというのは成功していたと思います。それだけ映像が真にせまって見ている側として最初から最後まで引き込まれっぱなしでした。